鈴木無花果
鈴木無花果 油-カラス-衝撃
       

タイタン

僕と、僕の親族と、この町が億万長者になって、町にはカラスしかいなくなった。

東北地方の外れの外れ。
十数世帯が住む僕の町。来年、隣の市との合併が決まっていた。
日常は爆音と衝撃と共に終わりを告げた。
最近、地震が多いとは思っていた。
いつかのそれを思い出させるような揺れ。
何度目かのそれのあと突然、我が家の裏手の崖から、真っ黒な柱が立ち上った。
それは僕の町に黒い雨を降らせて、一帯はひどい匂いで覆われ、家畜のニワトリたちはみんなカラスのように真っ黒に染まった。

日本でいくつめかの、油田の発見となった。
僕は土地の権利を国に売り渡し、億万長者になった。僕の親戚や、僕の町も。

しかし問題はその溢れる原油の量が多すぎることだった。
いつまでも噴き出す原油は止まる気配を見せず、吹き上がった黒い雨は風に乗って、時には県境を越えて土地を汚染した。
何万人もの人が、故郷を捨てることになった。

いつからか僕は、僕の町で生まれたことを人に話せなくなっていた。
誰が悪いとか、そういうことじゃない。
でも、あの町から来たと言うだけで、ひどい言葉を投げかけられた。

月に一度だけ、黒い雨の中、防護服を着て家の近くまで行くことが出来る。
隣には国の役人。
いつか、ご自宅の思い出の品を取り戻せるようにします、なんて言うけれど、実際のところ僕も彼も、どうでもいいと思っている。

危険区域を出て防護服を外した瞬間、背後で落雷の音。
一瞬遅れて、衝撃が僕の鼓膜を破った。
耳の中から温かいものが流れるのを感じながら振り返る。
一面の火の海の奥、僕の家があった場所に、何かの残骸が見える。

あぁ、これで僕も故郷を失えた。
安堵して、僕の意識は途切れた。

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