(本名)
(本名) 油-カラス-衝撃
       

もうええわ

黒闇寺 旭がコンクールで賞をとった油絵は夕闇の中、真っ黒なカラスに死体がついばまれているという衝撃的なものだったが、その死体は旭その人で、何よりその顔はジグソーパズルのピースのような形で空白になっていた。
それを見た光坂 透徹は衝撃を受けた。なんだ。これは。なんなんだこのセンスは。旭は男なのに女性に近い顔の造形をしていてロン毛だった。しかもいじめられていたから様々な憶測がたった。曰く、自分の顔が嫌いだからとか。大嫌いな自分を殺したかったんだとか。そんな陳腐な分析を聞いて透徹はブチ切れる。違うだろ、お前たちなんも分かっちゃいねえ!!
透徹は旭に会うために美術室の扉を開ける。旭は鼻に筆を差しながらぼんやりと夕暮れを眺めている。「なんじゃ?」と旭。この光景に透徹はしびれる。そして考えが確信に変わる。「お前、いや、旭さん……。あんた、あの絵はボケだよな? 渾身の」旭の表情が途端に明るくなる。
「そうじゃ!そうじゃ!お前さん。よう分かったな!!お前さんだけじゃ!」そう、旭は全力でボケただけなのに、誰もそのボケを理解してくれなかっただけだったのだ。
その日から旭と透徹の交流が始まる。透徹はお笑い芸人志望だ。しかし、このふつうの公立高校では、大した相方を見つけることはできないとあきらめかけていた。そのときに彗星のように現れた自称ピン芸人。それが旭だった。
旭はよく公民館でライブをやっていた。旭はシュールすぎるボケを連発する。見ている人には意味が分からなかったらしく笑いは一切なかったが、透徹はそこに尖りの美学と天才の片鱗を見ていた。
特に自身のいじめをネタまで昇華した、自分の筆箱をサッカーボールに見立てて蹴るネタなんて最高の笑えるし、それを猿になりたい、と絶叫しながらZOOをバックに流してやっているのもセンスを感じる。透徹は旭の才能に感動すると同時に怒っていた。「なんで、誰もこれで笑わないんだ?」ライブ終わり透徹は旭に言う。
「見返してやるぞ。これは復讐だ」

卒業式後の終業式で、在校生が表彰される。旭の絵も表彰の対象だった。
登壇する旭、表彰状を渡す校長。様々な保護者も見守るまさにその時だった。
「はい、というわけでね。ここから漫才をはじめさせていただきたいんですけども」
透徹が校長のマイクを奪って漫才を始める。
「ロン毛の美形と、めがねの七三でやらせていただくわけですが」
旭は透徹の入りを無視して突然自分の筆箱を蹴る。筆箱を蹴って遊ぶ旭に、サッカーボールでやれや!と鮮やかに突っ込む透徹。
「いや、今日も教室に戻ったら、机がひっくり返ってたんじゃがのう」
「だったら、逆立ちで授業うけろや!!」
受けてきたいじめをフリにしたボケに、どん引きする生徒と大笑いする生徒に二極化していた。教職員たちも2人の鬼気迫る雰囲気に邪魔をすることができない。
「なんでもね、旭くんの特技は油絵なそうですが。いかがですか、この作品は?」
「ああ、こならね。画竜点睛を欠いとるのよ、これは。画竜点睛を。だからこんなんはここをこうしてこうじゃ!!!」
旭はピースのように象られた空白に突然へのへのもへじを書く。大切な作品に突然油性ペンを走らせる旭に保護者から悲鳴があがる。
「これじゃ誰だかわからないじゃないか!!」
「ほんでこうじゃ!!」
立てかけた絵画へドロップキック。
イーゼルがバキバキ折れる音にまたもや悲鳴があがる。絶叫する者と大笑いする者に分かれた体育館は阿鼻叫喚のお笑い地獄だ。
「旭、お前いいかげんにしろ」
「いい加減も良い加減。こんな絵で表彰されるくらいなら、ワシはたった1夜の王になるんじゃ!!!」
「海賊王かよ!!」

「「もうええわ」」

「どうも、ありがとうございました」

深々とおじぎをする2人を見届けた直後、先生たちが旭と透徹を連れて行く。
まるで、FBIに連行される未知の生物だ。
2人は教師たちほぼ全員からめちゃくちゃに怒られた。
けれど、青空の下で説教を受ける2人の表情はすっきりとしていて、とても晴れやかだった。

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