鈴木無花果
鈴木無花果 磁石-メロディ-再生
       

エンディングテーマ

シンイチは耳が聞こえない。
しかしそのハンデを感じさせない、素晴らしい人間だった。

耳が聞こえない代わりに、自分は人の心が分かるのだとシンイチは言っていた。
相手の頭に卵大の黒い石をかざして耳を澄ます。
黒い石は磁石。
磁石を通して増幅された人の脳の電気信号が、彼の人工内耳に届く時、それは不思議なメロディとして彼に届くのだとか。

僕も友人たちも、そんなのは嘘だと知っていた。
確かに人の心を読んだような行動をとることが多かったが、それは彼はただ才能にあふれ、僕たちの気持ちに寄り添ってくれただけだった。

優しい彼は病気が進行しても、本当に手遅れになるまで、僕たちには教えてくれなかった。

お世話になりました、と彼の親から渡されたのは、USBフラッシュメモリ。
そこには膨大な量のmidiファイル。
ファイル名は日付と僕らの名前。
1つだけ別のフォルダに入った”エンディングテーマ”というファイル。
少し物悲しげな、1分程度のインスト。

彼には本当に、メロディが聞こえていたのだ。
そしてそれを残していた。
メロディは暗号、鍵は僕らが過ごした毎日。

僕は音源の解読に挑む。
仕事を始めて、家庭を持って、その日々の隙間で、エンディングテーマの意味を探る。
メロディは、メッセージだ。

結局、僕の音楽センスは彼に通用せず、技術の進化が結論をもたらす。
チューンしたAIに解読させたエンディングテーマを再生する。

僕はこの解読の過程で気付いていた。
やはり、彼にはメロディなんて聞こえていなかった。
ただ、彼の才能が僕らの日々に音楽をつけていただけ。
それでも、僕たちと過ごした日々から生み出した曲たちを、聞かせたかっただけなのだ。

解読が完了する。
“磁石はフェイク”
「知ってたわ」
僕は泣きながら笑った。

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