気がつくと目の前で侍のような男がご飯を食べていた。
畳と障子、掛け軸、座布団に座る男と置かれた御前。
ようやく僕は辿り着いたのだ、
山田屋に伝わる伝説の初代、山田発右衛門。
山田家の伝統。
当主は毎晩、布団の脇に御前を用意する。
半合の白米と汁物、漬物、空の椀。
発右衛門は慶応の時代に山田屋という商店を開き、一代で富を築いた商人である。
極端な美食で知られた発右衛門は死の直前まで美食を続けたが、まだ見ぬ美食を夢見ながらこの世を去った。
かくして代々の山田家は美食を続け、その記憶を夢枕から発右衛門に捧げようと考えた。
美食をし、御前と共に眠りにつく。初右衛門が気にいる”おかず”の記憶を夢枕に捧げるのだ。
目が覚めて米が減っていたらその当主の代は安泰。
そして僕は辿り着いた。
発右衛門が真に満足するものを捧げられれば、発右衛門と相見えることができるという伝承は本当だったのだ。
「破門だ」
「は?」
「おいらは美味いモンが食いてぇとはいったが外道に落ちろたぁ言っちゃいねぇ」
「しかしあなたが食べたことがないものなんてもうこれくらいしか!」
「破門だ」
目が覚める。
何か夢を見た気がするが覚えていない。
横を見るとひっくり返された御前。
無意識のうちに寝返りで返してしまったのか?
今回は人生をかけてまでの捧げ物だったのに・・・。
***
数日後、2つの事件が報道される。
日本を代表する山田グループの倒産。
そして、山田商社会長、山田発男による殺人事件。
彼は、殺した人間の肉を喰ったのだとか。
コメント
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