鈴木無花果
鈴木無花果 牛-ダイエット-シングル
       

雷神

あんたは神様の子なんだよ、とママはいつも言っていた。
昔、ママはある男に恋をした。男が痩せた女と歩いているのを見て、ダイエットを始めた。
ランニングコースの道中には神社があり、そこで毎日祈りを捧げた。
神社には”撫で牛”と呼ばれる牛の像が置いてあり、帰りにはその牛の腹を撫でた。撫でた部分の病気が治るのだ。
痩せられますように。そしてあの人と一緒になれますように。
そして悲願が叶い、ママと男は結ばれる。たった一度関係を持ち、そしてママは捨てられた。
残ったのはお腹の中の僕。
形はどうあれ、神様が願いを叶えてくれたのだから、と、ママは僕を産むことに決めた。
神様のおかげで授かった僕は、神様の子どもだ。

***

仙台駅東口周辺で傷害事件。
被害者は30代の男でLSDのプッシャー。
被疑者は15歳の青年。
逮捕された被害者曰く、薬の取引を持ちかけられ、出向いたところをスタンガンで襲われたとのこと。
被疑者、山田は取調べに対して自分は神の子であり、祟りを起こしただけだという。

「めっちゃスタンガン持ってるのに祟りってのは無理がない?」
橋本は宮城県警捜査二課の刑事である。
主な仕事は難事件の解決、と書いて、大したことじゃないけど面倒なオカルト事件を押しつけられる担当。

しかし山田は何を聞いても祟りだと言う。
「その神様って誰なのよ」
「天満大自在天神」
菅原道真!橋本の中で合点がいく。
「だからスタンガンなわけね、詳しいね」
菅原道真公は今でこそ天満宮に祀られる学問の神だが、その以前には雷神として恐れられていた。

「悪いことをするとバチがあたる。当然のことです」
「お母さん、お家にいるんでしょ?連絡つかないんだけど」
「あれはバチだったんです!!」
突然声を荒げる山田。
仕方なかった、と涙を流す山田。
橋本は山田の自宅の捜査を指示する。

直後、山田の自宅が捜索されると、山田の母の死体が見つかった。

山田曰く。
シングルマザーとして山田を育てた山田の母は、山田を授かったことをきっかけに様々な信仰へとのめり込んでいく。
やがてある宗教で教義の一環として摂取した幻覚剤をきっかけに、違法薬物へと嵌まり込む。
そしてついに先日、薬物の過剰な摂取で半狂乱になった母に包丁で刺し殺されかけ、抵抗する中で逆に母を刺し殺してしまった。
「ごめんね。バチがあたっちゃっただけだから、あなたは悪くないからね」
そう言って事切れる母親を見て、母親をここまで追い詰めた薬物の売人に、天罰を与えようと思ったのだった。

翌日は雷雨になった。
送致される山田に橋本が声をかける。
「なに、学問の神様の息子なんだ。勉強して立派な大人になりなさいよ」

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