(本名)
(本名) 募集中-坂道-親指
       

トワ

美作 衣織はひょんなことから人を殺してしまった。衣織の高校の友人である花咲 可憐の彼氏だ。
可憐は隣の高校に通う彼氏から暴力を振るわれておりそれに悩んでいた。彼氏は可憐がおっとりしているのを良いことに、その優しさに漬け込んで酷い要求を散々してきた。
しまいには金銭を求めるようになり、見かねた衣織が彼氏に注意をしようと可憐と彼氏を呼び出した。
気の強い衣織が彼氏を懲らしめようと思って説教をしたところ、激昂した彼氏が衣織に掴みかかってきた。
それを突き飛ばしたところ、坂道になっている河原の土手を転がって、首の骨を折ってしまったのが死因だった。
「どうしよう……」
人気のない、背丈の高い草むらの中まで彼氏の身体を引っ張っていった。
ひとしきり蘇生を試みようとしたが、彼氏の変な方向に曲がった首がその気持ちを断念させた。
衣織と可憐は話し合い、遺体を土手に埋めることに決めた。
橋の下の人気がない場所へ深夜に死体を埋めた。彼氏は町の人間から煙たがられていたから、死体が見つかってもさほど哀れむ声は上がらなかった。
衣織と可憐はビクビクしたが、結局、可憐が彼氏の関係者として取り調べられただけで、衣織も可憐の友人としての簡単な取り調べで終わった。
そしてヤクザ絡みの抗争に巻き込まれたという警察の合点により、捜査は打ち切られた。
しかし、調書の際に衣織は奇妙な話を警察から聞かされる。
なんと、彼氏の遺体には親指がなかったのだという。
その日から衣織は恐怖に囚われた。まるで、引き出しの中とかロッカーの中とかそういったところに親指があるような妄想に囚われていった。
だが、それもある日を境に収まった。
朝、高校へ行くとパトカーが止まっていて、可憐が呼ばれていった。
「えっ、なんで!?」
驚く衣織にクラスメートは言った。
「あの事件の犯人、可憐ちゃんなんだって」
実は、彼氏のことが忘れられなかった可憐が親指だけを切り取ってずっと持っていたのだ。
驚いて窓から見下ろす衣織を可憐は虚ろな目で見上げた。恐怖で衣織は血の気が引いた。
結局、可憐は衣織について口を割らず、可憐の単独犯ということになった。衣織はホッと胸を撫で下ろした。ほんのちょっぴりの罪悪感を抱えながら。

***

やがて数年が経ち、衣織は大学生になった。
可憐ともすっかり会わなくなってしまっていた。事件後、可憐は引っ越していなくなってしまったという噂も聞いていた。
やがて衣織はバイトを始める。町の洋食屋で、バイト募集中の張り紙を見て応募した店だった。
「これ、持っていって」
店長から、配膳する皿が渡される。
「はい!わかりました!」
しかし衣織はそのタンシチューを見て吐き出してしまった。
なぜならデミグラスソースのかかったそれが、人間の右手の親指に見えたからだった。

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