宇宙服を着たカナメがデブリの中を遭難して3日がたった。カナメはまるで自分が磁石になったようにデブリを引きつけているような気がしていた。デブリがいつ宇宙服をかすめて自分の身体を傷つけるか、あるいは空気が漏れ出すか、全く分からない状況だった。
いつ死ぬのか、救難が来るまでに空気の残量は持つのか。カナメは興奮しながらも、しかし妙に落ち着き払っていた。カナメは恐怖と戦っていたが、正直なところ、自分の生などどうでも良かった。カナメは独り身で、地球には家族も友人もいなかった。ただの暇つぶしで危険なデブリ除去の作業に入って、そしてそのまま命綱が切れて母船から吹き飛ばされただけだ。
俺の代わりなんていくらでもいるから、誰も助けてはくれないだろう。ああ、もう俺は死ぬんだろうな。漂うデブリを眺めているうちにぼんやりと思い出が再生される。それは、自分が子供の頃、まだカナメの家族が健在だった頃の思い出だ。
***
とおりゃんせのメロディが流れる交差点で母親の手を離してしまった。
それが家族の最後になった。
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思えば家族は磁石のようで、うまくいっているときは誰かがS極で誰かがN極みたいに異なる主張がうまく融和してくっ付いているのに、いがみ合ってしまうと同じような主張ばかりをするから、うまくいかなくなっていく。反発して離ればなれになっていく。
もしもあのとき、俺が母さんの手を離さなかったら、もっと違う未来があったんだろうか。
カナメの頭の中にとおりゃんせのメロディが流れる。
本当だったらあの後、家族で神社に行く予定だったんだ。どっちにつくかなんてどうでも良かったんだ。俺はみんなでひとつになりたかったんだ。ああ、畜生。
とおりゃんせのメロディが鳴り止む頃、宇宙の暗闇の奥の奥。丹塗りの真っ赤な鳥居が現れたのが見えた。
カナメは不思議に思いながらも、わずかに残った宇宙服の推力を使って、鳥居へと近づいていく。
そして、その不思議な鳥居をくぐろうとした矢先、鳥居はただの幻覚で、巨大で真っ赤なデブリが飛んできていたことにカナメは気づく。よけきれなかった。
あ。と思う暇もなかった。
絶命する間際にあったのは、ただ何かに手を引かれてそこまで歩いたような、そんな不思議な錯覚だけだった。
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