(本名)
(本名) 焼肉-役立たず-刀
       

西成四畳半物語

横山 壮一郎と立川 実は一緒に暮らしていたが、とにかく金がなかった。
シェアハウスというと今風だが、実体は西成の片隅のボロい安アパートの4畳半に無理矢理2人で暮らしているだけだ。
「ああ、金がほしい。なあ実。金があったら何するよ?」横山が言う。
「焼き肉、食いてぇなあ」
「ああー、分かる」
暇だけはあった2人はよく狭い畳の上に寝転がっては、妄想を並べ立てるのだった。
横山は梅田まで電車で行って、たこ焼き屋の店員をやっていた。アルバイトだ。
立川は遠い枚方まで電車で行って、ひらかたパークの着ぐるみのキャストをやっていた。
そんな2人はたこ焼きのキッチンカーを持っていた。キッチンカーというのは半分嘘で、ただのリアカーにゴミ捨て場で拾ったたこ焼き器を乗せているだけだ。
いつかは自分たちだけの立派なキッチンカーの店をもちたかった。立川が着ぐるみで呼び込んで、横山がたこ焼きを作る。プランだけは完璧だったが、なにぶん金がなかった。
そんな矢先、立川がパーク内の客と揉めたせいで着ぐるみのキャストをクビになってしまった。
ほぼ同時期に横山も、店に無断で洋風だしを使った新しい明石焼きを出してしまい、それが店側に発覚してクビになる。まかないに出したものをアレンジした形だったが、横山の才能をねたんだ先輩社員が仕組んだ罠だった。
八方ふさがりになった2人は、おみやげ屋の木刀をかっぱらい、西成の商店街でなけなしの金をはたいてパチモンブランドのスーツを買って、ミナミのほうにあるやくざの事務所を襲う計画をたてる。
「気合い入れろ、立川。ここで金をたんまり手に入れるぞ、おら!!」
「っしゃ!これで焼き肉食い放題じゃあ!!!」
すると、ビル内の事務所には誰もおらず、幼女が1人で座っていた。
「あれ?」と思う2人を幼女はにらむ。女の名前は天王寺。8歳にして立派なレディだと言い張っている。
「あたいを連れて行きなさいよ。早く!! 愚図! 役立たず!!」
追い込まれたじたじになった2人は、仕方なく天王寺をアパートへ連れて帰る。
天王寺は何でも有名な半グレの娘らしく、父親は自分を溺愛しているが、自分は半グレをしてる父親がものすごくイヤだということだった。
複雑な家庭事情を持つ2人は、こういった話に弱い。
天王寺は横山が作ったたこ焼きを「おいしい!! あんた、役立たずだと思ったけど、結構やるじゃない」と喜び、ひらパーでもらった廃棄品の着ぐるみを着て踊る立川を見て「あ、あたいはもうこういうので喜ぶ歳じゃないから」といいながらも一緒に踊ってくれるなど、狭い家だが案外楽しい生活を過ごす3人。
だが果たして、すぐに西成の安アパートは住所が割れてしまい、半グレ軍団が押し掛けるようになってしまった。
それならば、と2人はひと芝居をうつ。ある時は横山がたこ焼きを振る舞ったり、立川が着ぐるみでごまかしたりしていたが、最終的に半グレは大挙して押し掛ける強硬手段に出てくる。西成という無法地帯に警察はこない。2人はたこ焼き器と木刀で応戦をするが、そこで天王寺が叫ぶ。
「みんな待って!!」
全員が動きを止めたところに、拍手をしながら半グレ軍団のトップ、天王寺の親父が現れる。
にらみつける横山と立川に男が言う。
「はい、カット! これでいい画が撮れましたよ〜」「「へ?」」
実はこれは大阪で有名なローカルテレビのどっきり企画だった。しかし金のない2人はそんな情報を入手する術もなく、まんまと企画に乗せられていたのだった。
天王寺も実は最近売り出し中の子役だった。番組の趣旨説明を聞いてもぽかんとしている2人。何が何か分からない。
「ごめんね、お兄ちゃんたち」
天王寺はぺろりと舌を出して、いたずらっこのように笑う。
「でも私、この生活、楽しかったよ。横山さんも立川さんもありがとう」
ほめられて横山も立川も悪い気はしない。
番組は口コミからじわじわと人気になった。やがて2人は有名になり、大阪では2人を知らない人はいないくらいの知名度のローカルタレントになった。
しかし有名人になってからも2人は夢を忘れたわけではなかった。
横山がたこ焼きを作り、立川が着ぐるみで呼び込みを行う。
彼らのキッチンカー式たこ焼きの移動販売は、今でも有名な大阪のひとつの観光スポットになっているのだった。

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