主人公の妹尾和子が高校から下校していると、排水路になにやら新聞紙にくるまれた謎の物体が落ちていた。
その包みをほどくと、中から三つ編みが出てくる。
薄気味が悪くなる和子。なぜなら、その三つ編みを止めていたリボンは、自分が幼少期になくしたものだったからだ。
一体、誰がこんないたずらをしたのだろうか。不思議に思いあたりを見渡すも、人影は誰もいない。
警察へ届け出て数日後、学校に警察がやってくる。「妹尾和子さんはいらっしゃいませんか?」自分だ。和子は警察に話を聞くと、どうやら三つ編みから検出されたDNAは自分と一致していたことがわかる。不気味になる和子。なぜなら和子はここ数年は髪を切っておらず、ずっと長髪のままだったからだ。
そのときから和子は周囲を警戒して過ごすようになり、警察も協力をしてくれたが、結局犯人は見つからないままだった。
時は流れて和子は社会人になる。高校の時の恐怖体験には何も答えが出なかったが、やはりずっと長髪のままで、そのときの髪留めを常に持ち歩くようになっていた。
社会人になると、上司からの軋轢や仕事の理不尽さなど、つらいときもあったが、自分の髪が落ちていた恐怖以上の恐怖はありえないよな、と鼻で笑っていた。そんな自分の強さの象徴として、自分を奮い立たせるために髪留めを持っていた。
そんな日々を過ごして、ふと思った。なぜあのときに三つ編みが学校へ落ちていたのか。それはもしかしたら、高校を出て、働いて、浴びせられる理不尽や恐怖に打ち勝つために、過去の自分がくれたメッセージだったのではないか、ということだ。
気づいた和子はひさびさに学校へ行き、廊下を歩いてはたと気づく。貼られた校内新聞を見て、そういえば、あのときに三つ編みをくるんでいた新聞の内容は、日時こそ不明だったものの、最近起きたニュースだったではないか。
これは仮設だが、排水溝の中がタイムトンネルになっていて、そこから過去の自分への不思議なエールが送られていたのかもしれない。
和子は西日の差す教室で髪を三つ編みに結わえると、はさみでそれを切って、新聞紙にくるむ。
もしや自分の考えは仮説に過ぎず、たまたま塩基配列が似ていた誰か別の人の髪に、偶然自分のと同じ髪留めが入っていただけかもしれない。DNA鑑定も甘い、15年前の話だし、ニュースの中身だって、濡れた新聞紙から拾い読みしたものだ。
だけど、それでも和子にとってはそれでよかった。何かひとつのきっかけになった。
だから、明日は、さっぱりと髪を短くしてしまおう。これまでにないベリーショートヘアだ。
そうして、これまでの自分と決別して、新しい自分としてまたがんばろう。
和子はそう思いながら、三つ編みを新聞紙へくるんで排水溝へと放り投げた。
包みは水に沈んで、いつまでたっても浮かび上がってはこなかった。
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