(本名)
(本名) 心-砂-バイク
       

散漫警戒縦断ノ唄

人類が滅んで幾星霜、真っ白な砂漠と廃墟に覆われた世界は機械人形たちによって支配されていた。支配といっても、ただ、この砂漠の世界で機械人形たちは無目的に生きていただけだったが、彼らには感情がなかった。機械には心が宿らないから、何となく人類が滅ぶ前にはやっていたことを周期的にやって、感情を集めるまねごとをしていただけだ。
感情には大いなる価値があった。なぜなら、過去に人間が残した映画や本や音楽プレイヤーなどを観たり聴いたりしても彼らは何も感じなかったからだ。
機械人形のクエイもその一人だった。最近のはやりは、誰かが読んだ仏教の本にあった北の果てにある極楽浄土を目指すというもので、バイクを使って砂漠を縦断するのが彼らの現在の流行だった。
機械に宿らない心を求めて、機械人形たちは無心に北上をする。夜は暗く、虚無をかき立てるものだったが、クエイは何も感じない。眠らない。ただ、無心に北上して、休んで、バッテリーを回復させた。
極楽浄土を目指す旅は平坦ではなかった。まずはバイクのエンジンを動かすガソリンが枯渇した。そのためにクエイは砂漠を掘り続けて、油田を掘り当てた。油田の周りには、同じような機械人形がエネルギー切れで渇いたままに動かなくなっていたが、これが人類で言う死なのか、と考えるだけだった。
次に、北上する途中で、たこ型の機械人形に襲われた。機械人形は高度なプログラムが施されたものから、バグだらけの野良機械人形までピンキリだった。
たこ型の機械人形は典型的な野良のバグで、クエイが無心でぼんやりとバイクを走らせていたところを横殴りにされて巣へと引きずり込まれそうになった。
破壊されかけて、初めてクエイは死にたくない、と思った。
はっとなるような、不思議な感覚だった。
たこ型の機械人形をどうにか撃退して、クエイはさらに北へと向かった。
その先に何があるのか答えはなく、北にある極楽浄土ならば心が得られるのだと信じて疑っていなかった。
やがて、クエイは世界の果てにたどり着いた。
そこは砂漠のとぎれる場所で、人類が昔、海と呼んだ場所だった。
海の上には満月が登り、海面を煌々と照らしている。クエイは吸い込まれるようにそれを眺めた。気づいたら夜があけていた。
ぷっつりと夜を割るように太陽が昇りはじめて、やがて真っ赤な空が青く変わっていった。
夜明けに上る朝日をみながら、クエイは涙を流した。
それは、機械にあるまじき、心を持ったものが流す本物の涙だった。

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