路地の裏に猫が2匹いた。2匹とも野良の猫で、黒い猫が葬(はふる)、もう片方の白い猫は祝(ほうり)と言った。猫たちはウジのたかったお肉を分け合って食べるくらいに仲が良かった。
仲良しの2匹だったが、たったひとつ違ったのは、葬はヒトにあこがれ、ヒトになりたがっていたことだ。祝は逆にヒトへのあこがれはなかった。そんな葬に祝は人間になったってしょうがないぜ、と口癖のように言っていた。
ある日、葬は葉書くらいの大きさのカードを見つける。そのカードには神が封印されていた。偶然、封印を解いてしまう葬。神は封印を解いたお礼に葬の願いを叶えた。つまり、葬は人間になれたのだ。やった。これでぼくも人間になれたんだ。葬は喜ぶ。
しかし、その時から葬と祝の間にすれ違いが生じるようになる。人間の口に入れるものと猫が口に入れるものは根本的に違う。もう腐ったお肉を分かち合うことはできないのだ。人間の生活と猫の生活。2つの生活が重なり合うことはなかった。やっと、願いを叶えたのに。葬は夜な夜な悲しみに暮れるようになる。
そんなある日、葬が街で働いていると人間たちの噂が聞こえてくる。人間たちが祝が暮らす路地裏を潰してしまうというのだ。どうやら再開発のために路地裏を更地にするつもりらしい。路地には祝がいる!葬は急いで重機がまさに蹂躙せんとしている崩れかけた路地裏へ飛び込むが、祝は瓦礫の下に埋まってしまって出られない。葬も不意に鉄骨が落下してきて衝突しそうになる。まさにその時。
葬は神様を封印していたカードをおもむろに取り出すとそれを掲げる。神様を封印できたなら、きっとぼくらも封印できるはずだ!
葬の予想は当たった。気づくと葬と祝は2匹ともカードの中に封印されていた。葬は猫に戻っていた。ごめんな、と祝。おれのせいで葬は人間になれなくなってしまった。ううん、これでいいんだ、と葬。ぼくらはずっといっしょだよ。これでよかったんだ。これがぼくの本当の願いだったんだ。ありがとう。そう言いあって笑う2匹が封印されたカードはやがてポストカードになり、そのまま色んな街を旅したとのことだった。
葬の本当の願いは2匹がいつまでも仲良く暮らすこと。それは祝にとっても同じ願いだった。
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