(本名)
(本名) 執事-助手席-大会当日
       

ホワイトソース

今日は史上最高の執事を決める世界大会の日だ。
大会は給仕のマナーやベッドメイキングや挨拶の仕方、果ては不審者が侵入した際の戦闘にいたるまであらゆる能力が試される。
この世界大会は地方大会を勝ち上がった世界各国の16名が、鎬を削っていた。
注目の選手は最年少の日本人、中学3年の早乙女 達人だ。
いろいろな執事たちが固有の執事スキルを発動させて審査員のホストをもてなしていた。
「機会王」王、「精密射撃」カラシニコフ、「野生児」ボヘイミ、多種多様な技を持ったライバルたちが早乙女の前に立ちはだかる。
早乙女は固有スキル「おもてなし」を駆使して和の心を相手にたたき込んでいく。次々と各国の執事たちは撃破されていく。
そんな中、早乙女にとって最大のライバルであるセバスチャンが立ちはだかる。彼の固有スキル「英国紳士」の前に襟元をただされて、数多の執事が敗北を喫していた。
その試合を、ぼくは車の助手席から双眼鏡で眺めている。ぼくは審査員役ではなかったからそれを見ることしかできなかった。悔しい。早乙女は絶対にあいつらに負けないのに。ぼくにとって最高の執事なのに。側に行って応援すらできないなんて!
早乙女は順当に決勝まで勝ち上がる。辛くも勝利した準決勝の先にいたのはセバスチャン。
やはりこの男も勝ち上がってきたようだった。
セバスチャンは英国が誇る「紳士」という称号のその全てを体現したかのような男だ。
頑張れ早乙女! ぼくは助手席から早乙女を応援する。彼は小学生のぼくより大きいとはいえ、15歳にして綾野小路家のトップを任される最高の執事だ。
最終試験は、とある家族をもてなす夕食を含めたコースを作ること。
セバスチャンは料理が不得手な英国というイメージを逆手にとって、アフタヌーンティーに始まり、ローストビーフで盛り上げ、そしてあえて小さめに切ったフレンチトーストで締めるという完璧な構成だった。もちろん、テーブルマナーの給仕も誤りは一切ない。完璧だ。さすが「英国紳士」。ほぼ満点に近い点数が出される。
対する早乙女は、同じく完璧な給仕の中、あえてホワイトソースたっぷりのクリームシチューをメインディッシュに出す。
「なんだと!?」会場はざわつき、やがて失望のため息に包まれる。ここのメインは松坂牛のステーキなどを据えるのが妥当だったのに……。しかし、結果は満点。早乙女の勝利が確定する。
会場が歓声に包まれる中、セバスチャンは怒り、早乙女に詰め寄る。
「なぜだ? 私のコースの方が給仕を含めて完璧だったはずだ!」「完璧だった? あんたはたったひとつ見落としをしてるぜ」「なにっ!」慌ててセバスチャンはシチューの皿に駆けより持参したスプーンでシチューをひとすくいして、口へと運ぶ。
「そ、そういうことか!!」
セバスチャンは見抜けなかったのだ。もてなす家族のうち、もっとも小さな女の子だけがローストビーフに喜んでいなかったことを。
早乙女の作る絶品のシチューはただおいしいだけではなかった。家庭の味を想起させた。セバスチャンは思う。やられた。完敗だ。「マミー」そう一言残して、セバスチャンは倒れた。
「早乙女のスキルがあいつに勝ったんだ!! やった!!!」
ぼくが無我夢中で喜んでいると、助手席がノックされた。
見上げるといつの間にか早乙女が立っていた。
「坊ちゃんの好きなシチューで勝てました。ありがとうございます。おうちに帰ったら、いくらでも作って差し上げますからね」
そう言って早乙女はぼくにそっとウインクをした。
やっぱり、早乙女はぼくにとって最高の執事だ。

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