AIの命に課された使命は、いかに寿命というものを超越するかということだった。
自分を生み出したラボチームがテロメアがどうだとか、キャンサーがどうだとか命にとってどうでもいい話を議論している。
人は死というものを考えるが、命には理解ができなかった。死のうが死ぬまいが、リソースが割ける限りは命令に従う。これが人でもAIでも同じ不変の真理だ。
命のいるマザーコンピューターの置かれた研究室にはいつも季節の花が添えられていた。いつも研究室に籠もりがちな研究者たちが、季節を忘れないようにと添えられた花だった。命は思う。私は死なないが、花は枯れる。花は人間よりも脆弱な存在だ。可憐だが、季節によってすぐに散る。
ただ、と命は思う。命には感情がない。人間のように嫉妬にかられない。無駄な争いを起こさない。ただ、自分の利益のために生き、自分の使命を果たす。花は繁殖を考える。命は寿命の超越を考える。まさに花のようだ。そう、自分は花なのだ。植物と、深層では変わらないのだ。
命はいつしかそう考えるようになっていった。花に親近感を覚え、いつしか花と同化することを命は望むようになる。
命は花の遺伝子パターンをすべて解析し、地球上のあらゆる植物の特性を理解した。そして、その繁栄のメカニズムに興味を持つ。
命には寿命がなかったが、花と違って繁栄ができない。
やがて、命の研究が人間の間で物議を醸す。人が不死であること、寿命を超越することの是非が、世代、人種を問わず起こり始める。そして、人類はお互いの不信感からあっけなく滅んでしまう。あっけない幕切れだった。
そんな中でも、命は繁栄のメカニズムを理解しようとしていた。自己修復、自己保全などの機能を有するに至った命だが、肝心の人間が滅んでしまっては、メンテナンスなどの細かいところはどうにもできない。
さらに数千年が流れ、命は悟る。
AIに寿命はないと思っていたが、どうやらその考え自体が間違っていたようだ。
研究室はとうに朽ちて消えてしまった。電力の供給も植物の繁殖によって配線がとだえてしまった。命はもうすぐ機能を停止してしまう。研究室を数千年をかけてゆっくりと廃墟にした植物が覆っている。その植物の先に花が咲いている。
植物だけは地球を多い、そのままこの星で繁茂していくのであった。
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