(本名)
(本名) ATM-カリスマ-太陽
       

Torch

逆島 賢之介は、金がなく、飢えて死にそうな日々を送っていたが、ある日、神と名乗る男から、カリスマになれる能力を授かった。
雨の降る路地裏で、汚い男が二人、座っていた。
「カリスマになれる能力?」
いぶかしむ賢之介に、神は言う。
「人の話を聞いて、そいつに適切なアドバイスが出せる能力さ」
神はぶっきらぼうに答えた。賢之介にとっては、どんな能力であれ、それが腹の足しになるならば、どうでもよかった。
「なあ、あんた、あんまりお節介は焼かないほうがいいぜ」
「フン、いいアドバイスだな」そう言って、神はのそりと立ち上がり居なくなった。

やがて賢之介は、億万長者になる。神の気まぐれで授かった能力は、賢之介を教祖へと押し上げた。
信者はみんなATMだ。適当に話をして、なんとなく頭に浮かんだアドバイスを放ってやるだけでいい。
そうすると、ありがたがる信者どもは賢之介へ金を恵む。
成人を迎える今の今まで、賢之介が食べたことがないようなものが次々と運ばれるラウンジで、女に囲まれて高級な酒を飲みながら、ぼんやりとこれが幸せなのか、と思う日々だった。
もう飢えることはない。それだけで十分だったはずなのに。

面白味のない日々と反比例して、信者の数は次々に増えていった。
徐々に自分がわからなくなってくる賢之介。
カリスマだと祭り上げられたって所詮は、ただの世間を知らない若造が好き勝手言っているだけだ。本当の俺は何なんだ。人を導く才能があるのか? それは、本当の俺か? アイデンティティが曖昧になっていくのを感じて、賢之介は逃げるように河原へ行く。
すると、そこにぼんやりとひなたぼっこをしている婆さんがいた。
賢之介はその陽光の差す姿に太陽を感じた。振り向く婆さんは、盲目だった。

なんとはなしに、婆さんと賢之介は世間話に興じる。その中で、婆さんは近所に1人で暮らしていること。息子夫婦も他界してしまって、1人になってしまったこと、施設への入居を断っていること、などを賢之介は知った。
気の毒に思った賢之介はよかれと思って、婆さんへアドバイスをいろいろとする。
身体にハンディのある信者のことはよく知っていた。これなら喜ぶだろう、というアドバイスのひとつひとつを婆さんは笑って、かぶりを振る。「別にいいのよ」という言葉に突き放すような雰囲気はなく、その日溜まりのような居心地のよさは能力を得て以来、賢之介がひさしく感じていないものだった。
不意に、賢之介は言う。
「なあ、一緒に暮らさないか? 1人より、誰かがいた方が、いろいろと都合がつくんじゃねえかな?」

やがて、賢之介は婆さんと2人暮らしをするようになる。
能力を持っている賢之介よりも、婆さんのほうが、第六感に長けているみたいに見えた。本当は見えていないはずなのに、誰よりも賢之介の心を見通しているような気がした。手料理も振る舞ってくれた。
涙を流しながら料理を食べる賢之介を「そんなに喜んでくれてありがとうねぇ」と、見えていないはずの婆さんはうれしそうに喜んでくれた。

ある時、婆さんが倒れた。検診に来た医者は、もう保たないだろう、と言う。
賢之介の病院に行くようにというアドバイスを無視し続けた結果だった。
婆さんは賢之介へ言う。
「今までありがとうね。初めて会ったとき、いろいろと私に親切にしてくれたでしょう。そして、一緒に暮らすって言ってくれた。今思うとね、それが、私にとっていちばんのアドバイスだったのよ。1人で生きてきて、つらくさびしかったけど、あなたがいた。あなたは目の見えない私にとっての、太陽だったのよ」

やがて、婆さんは息を引き取った。
賢之介はいつもの河原へ行くと、スコップで穴を掘り始める。何日も何日もかけて大きな穴を掘ると、そこへ火葬した婆さんの骨をいれて、墓を作った。立派な墓だった。
賢之介はすっきりと、晴れやかな顔で、河原を後にする。

やがて長い年月がたち、婆さんの死体が眠る河原にひまわりが咲いた。
いくつもいくつもひまわりが咲いた。
それは、太陽に向かって、まっすぐに伸びる、大輪のひまわりだった。

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