(本名)
(本名) 米-写真-ダメージ
       

空白のメモリ

孤児院で育ち、現在は新宿で何でも屋をやっている「尾幌 メモリ」は、記憶が持たず、忘れっぽいから、ポラロイドカメラをいつも持ち歩いている。
過去にあった何かにより脳に重大なダメージを負ったため、記憶が持たなくなってしまったのだが、記憶する事だけができなくなっており、写真を見ると、必ずそのときのことを思い出すことができた。
そのため、本人はそんなに不安視はしておらず、至ってマイペースだった。
ただし、覚えておくことが困難なため、ふつうの職にはつけなかった。どんな秘密でも忘れてしまうため、本人の穏やかな性格も相まって、聞き屋兼、何でも屋として、神父のような役割を果たしていたのだった。

そんな中、メモリが持っている膨大な写真の中で、見ても思い出せない写真が1枚だけあった。 茶碗と、米が映った写真だ。これが一体何なのか、メモリにはさっぱりわからなかった。
そして、メモリはいつしかポラロイドカメラと一緒に、その写真を首からぶら下げて客に質問をして、情報を聞き出していた。
そんなある日、写っている茶碗に見覚えがあるという人がいた。茶碗は著名な陶芸家が作った作品だった。
その情報をメモに書いてもらい、さっそくポラロイドカメラでパシャりと撮るメモリ。
陶芸家に写真を見せると、彼は作品を買った人の事を覚えていた。
茶碗は陶芸家が住んでいる地域の有力な豪農が結婚記念日に買っていったものだという。
ただ、陶芸家は言いにくそうに「あそこへ行くのかい?」と声をかけるが、メモリは気にせずにありがとうございます、と伝えてそのまま家へ行く。

伝えられた住所へ行ってみると、そこは廃墟だった。
そこまで来て、メモリは思い出す。
ここは、かつてのメモリの家だ。
そして、この家で何があったか、鮮明に記憶がよみがえる。
父親は酔うとよく暴力をふるう人間だった。
きっかけは食事の時間だった。その日も父親と母親が口論になった。理由はたしか、炊いた米が固すぎる、とかそんな理由だった。
そして、そのまま、父親が母を殴った。母をかばったメモリも殴られた。母親が包丁で父をさして、かばった兄が死んだ。発狂した母は自分で自分を刺そうとして、止めようとした父親をさして、そしてそのまま自死した。メモリはそれをすべて見ていた。そして、そのあまりの光景に脳にダメージを負ってしまっていたのだった。

メモリは自分の出生の秘密を思い出す。
そして、なぜ、茶碗と米の写真を残していたのかに気づく。過去を忘れないために、と思っていたメモリだったが、結局は自分で自分の心に蓋をしていたのだった。
ただ、この事実を知ったところで、現在は変わらず過去は消えない。
メモリは今日もまた、新宿のビルの片隅で、つらい人、困った人のために聞き屋を続ける。
ただし、一つだけ変わったことがある。それは、茶碗と米の写真を見て、過去が思い出せるようになったのだ。
メモリにとっては、これだけでも大きな前進だった。
心の傷をひとつ、乗り越えることができたのだから。

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