タラオはオスのタラである。
ある日やたらと身体の大きい仲間がぐったりしているのを見つけ助ける
どうやらそいつは身体ばかり大きいが、まだ中身は子供のようだ。
ついでにヒレの形も違うし肌もパッキリ別れた2色。
タラオは知ることがないが、それはシャチという哺乳動物の子供だった。性別はオス。
タラオはそいつに”マダラ”と名付けた。
黒と白のまだら模様だからだ。ちなみにタラオはタラの中でもマダラです。やかましいわ。
タラオはプランクトンや自分より小さい魚を食べる。
しかしマダラは、今は我慢してタラオと同じものを食べているけれど、魚は少しも食べたくないという。
魚とは違うけれど、もっと大きな、海にいる何か。
シャチの食性は生まれつき決まっていて、例えばクジラを食べるものはクジラだけを食べるのだが、2匹にとってはどうでもいい。
そんな折、タラオのいる群れが黒白の巨大な魚に襲われる。
マダラと同じ模様。
群れ中に知らされたのは、”マダラが群れの仲間を喰った”ということ。
何かの間違い、誤報に違いない。
群れの中心に戻ったタラオとマダラに向けられたのは敵意ですらなく、
ただ、捕食者に対する恐怖だけだった。
タラオの兄弟であるタラスケが叫ぶ。
そいつは仲間を喰ったんだ!早く逃げろ!
事実、群れを襲ったのはマダラではなく、どこかから迷い込んだシャチだった。
タラオは応じない。
マダラはずっと俺といたが、仲間を喰うなんてとんでもない。
マダラが喰うのは、俺たちみたいなちんけな魚じゃない。もっとでっかいヤツだ。
このでかい身体も、するどい牙も、全部マダラの才能だ。
マダラは俺の自慢の弟だ!
マダラ自身、気づいていた。
自分はタラオとは違う生き物であるということ。
だがタラオがそう言ってくれたおかげで、自分を認めることができた。
その後、タラオとマダラは何度も疑いの目を向けられることになる。
それでも2匹はいつも2匹で群れにいつづけた。
次第に、マダラが捕った鯨の肉を群れの仲間に与えることで、
マダラも群れに認められていく。
しかし、その光景をタラオが見ることはなかった。
シャチの寿命は50年。
タラの寿命は長くて10年。
タラオの亡き後もマダラは群れに食糧を与え続けた。
奇妙な、ハンターとターゲットが共生するひとつの群れ。
彼らが今、どこの海を泳いでいるのか、知るものはいない。
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