(本名)
(本名) 誤報-魚-才能
       

夢は夜ひらく

木立 正夢が夜道を歩いていると、真っ黒な浴衣を着た影が周囲に大量の金魚を身にまとって歩いているのに出くわす。正夢が不思議に思っていると、その影は、河口湖駅の改札へと消えていった。そして、それを追いかけた正夢は、その影がそのまま最終電車にひかれて霧散するのを見た。声をかける暇もなかった。
はっとなる正夢。正気に戻ると、ここは自室のベッドの上だと気づく。
さっきのは夢か。なんだったんだ。気になってしまい、正夢は結局眠れず夜を過ごす。
それから正夢は何度も同じ夢を見る。謎の影がひたすら電車にひかれて死んでしまう。そして、それをどうにも止められない。
夢という名のループにも法則が存在して、正夢はその中で何とかその影と接触を試みる。会話はできることや、影は女で、自分と同じ河口湖高校の人間であること、名前は覚えていないことなどを話す。しかしいつも最終電車のアナウンスが入ると、正夢との会話を遮って電車へと飛び込んでしまうのだった。なぜ、どうしてだ? 正夢は考える。
正夢の天才的頭脳をもってすれば、こんなことは簡単なはずなのだ。
どうやったら止められるか。まずは地道な検証が必要だと判断する正夢。
正夢はまず、この世界ならば何ができるかを模索し始める。そこで分かったのは、ある程度の物理法則は夢だからどうにか好き勝手ができるが、女にはさわれないことや、電車を止めるのは不可能なこと、女はアナウンスの後、いつも河口湖駅前の時計を見て、そのまま駅へ向かい、改札を過ぎて、ひかれて死ぬ、というのは変えられないことが分かる。加えて分からなかったのは女の格好だ。浮遊する金魚、浴衣……つまりは夏。夏に何があった?
翌日、河口湖高校へ行ったところ、仲の良い友人から心霊写真を見せられる。「これ、うちの高校らしいぜ。やばいよな」言われてケータイに写るそれをよく見ると、髪の長さからあのとき死んだ女ではないかと気づく。友人の話だと、その心霊写真はまとめサイトに最近あがるようになったもので、写真自体は結構最近撮られたものだという。急いで高校の資料室へ行く正夢。これだ、そうかそういうことだったのか。
夜、夢の中で女がまた歩いている。とても美しい金魚をまとって、きれいな浴衣を羽織って。女がいったいどういった事情で飛び込んでいたのか。それを正夢は知らない。ただ、せめて夢の中だけでも救いあれと思うだけだ。
女がいつも通りアナウンスが入った後に駅前の時計を見る。女が歩き出す。正夢は叫ぶ。「誤報だ! 間違いだそれは!!」女は足を止めて、振り返る。時計を見る。足を止める。その直後、電車は走り去り、終電は去っていく。
女の周囲にいる金魚は、「和金」という夏祭りの定番の種類だ。これと、浴衣から類推するに河口湖の花火大会に来ていたことは想像に難くない。だったら、誤報ということにして、混乱させれば、自ずとその間に最終が走り去り、女は消えないはずだ。
これまでの経験から女が飛び込むのは必ず最終電車だ。それも、河口湖の花火大会の夜の最終電車だった。だったら、その条件を変えてしまえばいい。正夢は急いで時計に上って、ガラスふたをはずして時計の針を動かした。物理法則を無視した夢ならではの動きだ。夏祭りは増便をしているから、最終が遅い。それを正規の時間の最終電車の時間に時計の針を動かす。女は混乱するはずだ。なぜなら、花火大会に来ているのだから。
女が自殺をしたのは、高校の資料室で調べ済みだった。事故死ではない、明確な意志を持った自死。それがなぜかは正夢は分からなかった。ただ、心霊写真の表情は浮かなかった。それが、正夢に彼女を救う決心をさせた。
果たして、正夢の思惑通り、女はそのまま涙を流して、口で何かを伝えながらゆっくりと光の粒になりながら消えていった。それは正夢に「ありがとう」と伝えているように見えた。
翌日、正夢の友達が「こないだの心霊写真!写ってた幽霊が消えたんだ!!やばくね!!」といいながら走り寄ってきた。
それをふん、と聞き流しながら、やっぱり俺は天才だなと正夢は思った。

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