棟夜 獏はニートだから、人目を気にして夜にだけ出歩いている。
そんな中、同じように深夜徘徊を繰り返す少女、荒倉 こよりと出会う。お互いの年齢が近いこともあって、打ち解けあうふたり。どちらも、高校に行っておらず、獏の中退してニートをやっている境遇をきいて、こよりも心を開いたようだった。
しかし、こよりは、普段はふつうだったが、時折、身体をくの字に曲げてうなったり、ほえたりと挙動不審になることがわかった。
獏はこよりが精神の不均衡から狐付きになっていることに気づく。しかし、彼女の精神を安定させる方法が獏にはわからなかった。
ある時、親の財布からくすねた金でいつものようにマンガ喫茶へ行くと、NARUTOというマンガを発見する。狐を従えるNARUTOを見て、これだ、思う獏。
その日、獏はこよりにある告白をする。「……おれさ、実は忍者なんだ」
何をいっているんだ、という表情をするこより。そして、その直後、こよりに発作が起きる。こよりは、獏が自分をバカにしたと思って、狐付きが発症したのだ。今だ!すかさず、獏は九字を切る。「大丈夫だ、おれは忍者だからお前の狐を従えることができるんだ!!」「き、つね?」「そう、お前には狐が潜んでいる!そいつを今から押さえ込む」やがて、こよりの狐付きは収まる。
最初は信用していなかったこよりもやがて、獏は忍者だから、九字で狐を抑えられるんだ、と信用し始める。
その日から、こよりの狐付きが発症するたびに、忍者のまねごとをして、狐を鎮めるようになる獏。忍者説を補強するため、ある時は、屋根からやってきたり、公園の噴水の中から現れたりもした。
そんなある時、こよりが衝撃的な告白をする。「ごめん、獏。実は、わたし、狐なの。人間じゃないの」こよりの正体は人間ではなく、狐が化けたものだという。だから、人間社会になじめず苦悩して、狐に戻ろうとする葛藤が狐付きを呼ぶのだという。驚く獏。そしてそのまま、こよりはいなくなってしまう。
その日を境に、こよりは獏の目の前に姿を現さなくなる。しかし、正体が狐だなんて嘘だった。本当は、こよりは獏は忍者じゃないと知っていた。これ以上迷惑をかけたくなくて、嘘をついただけだった。
数ヶ月の時がたった。こよりは、狐付きの症状が日に日にひどくなり、外へ一歩も出られなくなった。ベッドの上でのたうち回る日々。誰にも理解されない。誰もわかってくれない。
そんな夜、窓がこんこん、とノックされた。
ここはマンションの7階だ。こんなところに誰か居るのか。
窓を開けると、真っ黒な装束を着た獏が、ベランダの手すりに立っていた。
満月の下、表情は見えない。スカーフが風になびいている。
どうして、ここに? と、いうかなんでわかったの? どうやってここまで?
こよりの頭の中で疑問が飽和して、何も言えなくなっている。ようやく言葉を発しようとした、こよりを制するように、獏は言った。
「だって、おれ、忍者だからさ」
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