ハルヒコは間もなく二十歳になるが知能は幼稚園児レベルである。
ハルヒコはしかし、特別なトレーニングを積んでいる。
“博士”は脳科学の権威で、博士による知能を取り戻す研究にハルヒコは協力している。
継続的な投薬とペーパーテスト、身体を使ったフィールドワーク。脳を活性化させるのだ。
ハルヒコのお気に入りはオレンジを探すワークだ。
中庭でオレンジを探して、絞ってその場でジュースを作る。
最後のトレーニングだ、と博士が言う。
これをこなせば、普通のみんなと同じになれる。
特別なオレンジを取ってくること。
そのオレンジは大事なものなので、銀行に預けてある。
途中にある別のオレンジは食べてしまっても構わない。
ハルヒコは難なくトレーニングをやり遂げた。
途中でオレンジを6個食べて、銀行の奥でそれを見つけた。
博士に渡すと、博士は大いに喜んでオレンジを迎え、オレンジを抱きしめた。
そして博士が何やらスイッチを押すと、ハルヒコの首元が爆発し、ハルヒコの意識は途切れた。
※※※
悪虐非道の犯罪である。
D博士は元々A研究所で人間の知能について研究していた。
人道に外れた研究を続けた博士は、自分の息子、娘を次々に人体実験へ利用した。
それが発覚し研究所を追われる。
博士は子供たちを人体実験に利用していたがしかし、それは博士にとっては愛情表現の一貫だった。
既に死体となった自分の子供に執着した博士は、身寄りのない知能障害者アズキハルヒコを利用する。
投薬とカウンセリングにより、アズキは超人的な肉体と歪み切った認知を得る。
例えば、アズキにとって、”銀行”とは博士が元いた”研究所”であり、”オレンジ”とは”博士以外の人間”である。
アズキに研究所を襲撃させ、我が子を取り返した博士は、その破壊力が自らに向かないよう、アズキを殺害した。
D博士の行方は知れない。
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