(本名)
(本名) エネルギー-カーテン-100万円
       

妹は100万円分のカーテンを買った

ある日突然、妹のセリがカーテンを大量に買ってきた。何度もリヤカーで家まで運ばれたカーテンはオーダーメイドの特注品で、全部で100万円分はあるという。
「なんでこんなに買ってきたんだ!? お金はどうしたんだ?」僕の質問にセリは答えない。
セリはとんでもないエネルギーの塊だった。兄の僕でも信じられないようなことを時折しでかす。火の玉のように猪突猛進、やると決めたことは必ずやりとげる。手段は選ばない女の子だ。そんなセリだから、どこからともなく100万円の資金を調達しても驚きはしなかった。夜な夜な6面もあるディスプレイで折れ線グラフみたいなものを見ていたから、資金源は株かFXかそんなところだろう。
そしてセリは買ってきたカーテンをひとつひとつ縫い合わせていった。セリはあまりにもカーテンを縫い合わせる作業に没頭して、兄妹で決めた当番制の食事作りもさぼってしまう始末だった。
仕方ない。ここは兄の僕が作ってやるかと、夕食を作りセリを呼びにいくとセリはいない。カーテンの山をかき分けると、どうやらその中で眠ってしまっていたようだった。ここ最近の様子を見ると、それもやむなしだった。

やがて、何日か経ち、セリは「やったー、できたよお兄ちゃん!!」と僕にうれしそうに報告をする。出来上がりを見に行くと、セリはうれしそうにカーテンをすべて縫い合わせた塊を見せてくれた。「200メートルもあるんだよー」とセリは自慢げに笑う。縫合用の糸も最高強度のものを使用している完璧な一品らしいが、僕にはよく分からなかった。
そして、それを今度は僕と一緒に川まで運んだ。軽トラの荷台に一緒になって、塊を乗せている時になって、ようやく僕はなんとなくセリの意図を理解した。
そしてセリは川の縁まで来て、カーテンを近くの杭に結びつけると、その反対側をもってそのまま向こう岸まで泳いでいった。ものすごいエネルギーだ。こんなたくましい力がほんの少しだけでも母さんにもあれば……そうぼんやり思っていると「いいよ、お兄ちゃん」とセリが言う。カーテンを反対の杭に結び終えたみたいだった。そして、そのままカーテンを広げて、川へ浮かべた。
「うわあ、きれいだね」セリは感嘆する。まるで、川辺に広がるカーテンはオーロラのようだ。いつか見たいね、と言ったまま、僕たちを救うために川で亡くなった母が言っていた、そのオーロラを川の中に広げたのだ。
陽光に照らされてキラキラと輝く川面と、その川の中を更々とカーテンは流れる。
僕は川のオーロラを見ながら、同じ100万円をかけて、遺骨をもってフィンランドまで行ってもよかったんじゃないかなと、これと決めたら向こう見ずなセリに対して無粋な考えが頭をすこしよぎったが、横で涙を流しているセリを見てしまい、ああ、これは僕が間違っていたんだと知る。
きっとこれはそんな単純なものではないのだ。
この川にカーテンをかけたかったのは、ただのオーロラなんかではなく、亡き母が溺れぬようにという、妹の優しさだったのだ。

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