大学の校内をぶらついていた鮫島 歩は、自称【魔女】から食堂で金をたかられる。
飯を食いながら話をしていると、【魔女】は歩と同じ大学生だが、別な時間を生きているという。曰く、時間を操る魔法が使えるらしく、同じ時間をコピペしたり、退屈な時間をはぶいたり、ループさせたりと、およそ時間に関わるあらゆる事はできる。だから【魔女】。だけど他の魔法は使えない。
そんなことをどや顔で語ってきたのだった。
「そんな【魔女】がオレに何の用だよ?」
「それだ、それ。その不敵な三白眼にぎざっ歯のお前。お前だったら、何か面白いことができるだろう」「はぁ!? ふざけてんのかよ、てめえ」
どうやら【魔女】は、あまりにも悠久の時を生きて退屈しているらしい。だから、この能力を十全に生かせる人間を虎視眈々と探していたらしいのだ、己の暇つぶしという欲望のために。
なるほど、鮫島はたしかに邪悪なのび太くんの異名を持つ、他人の長所を悪用する事にかけては全一といっても過言ではなかった。
この前の学祭の時に、あんかけチャーハンとかいう【魔女】にはなじみの薄かった食べ物で荒稼ぎをしていた様子を見て、興味をもっていたらしいのだ。
鮫島もほめられて悪い気はしない。何か、案はないだろうか。あった。これだ!
「ヒャヒャヒャ【魔女】よ、こいつだ!」
数日後、鮫島が【魔女】に見せたのはパイナップルだった。
横浜ダイエー前の青果店で、青くなったパイナップルや、腐ったパイナップルを格安で譲ってもらったものだった。
「ん?これをどうするんだ?」
【魔女】は首を傾げている。
「これを、お前の魔法で、時間を進めたり戻したりして完熟にして売る!」
ぽかーんとなる【魔女】。鮫島は目をぎらぎらと輝かせている。
こすい!あまりにこすいぞ!【魔女】は思った。しかし、あまりにも自信満々でこんなくだらないことを提案してくる鮫島に【魔女】はますます興味を持った。
それから、リアカーを学部棟から拝借して、パイナップルの手売りを校内で始める2人。本当に大丈夫なのか?という【魔女】の思惑とは別に、完熟パイナップルは売れに売れた。
あまりに好調な気配に、「これは、パイナップル以外でもいけるのでは?」と考えた鮫島は、バナナやぶどう、ももにみかんに、トマトとおよそあらゆる野菜を仕込み始めた。
しかし、季節は夏へとさしかかっていた。完熟のものなど、たやすく手に入りやすくなっていることに、アホな鮫島は気づかなかったのだ。
奮発して買った業務用冷蔵庫の購入費、維持費、電気代、仕入れの費用、在庫管理費etc…etc
鮫島の部屋には領収書の山。お金は払えず電気は止められ、いくら魔法をかけても腐り始める野菜や果物の腐敗には追いつくことはできないだろう。
見通しの甘かった鮫島は汗だくになりながら部屋に漂う甘い匂いとともに叫ぶ。
「なんでだー!!」
同じく汗だくになりながらそれを見る【魔女】。完熟パイナップルを食べながら、やっぱり人間は飽きないナーと思ったのだった。
「【魔女】!!」「ふぁい?」「今度は半額弁当を売るぞ!!」「はいはい」
懲りない鮫島は、【魔女】に魔法をかけてもらい、肉体疲労を時間遡行でショートカットして、24時間無休憩派遣バイトで借金を返し終えるという荒技にでるのだが、それはまた別のお話である。
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