(本名)
(本名) 捕獲-ラッパー-テニス
       

ブリング・ザ・ビーーーツ!!

遠い未来、ヒップホップは禁忌とされていた。
かつて、ラッパーが世の中を扇動して国家転覆を図った。それも、日本だけではなく、世界中のラッパーが一斉に声を上げたのだ。
各国の首脳にマイクバトルを挑む様子が動画サイトでゲリラ配信され、それが世の人々の魂に火をつけた。
しかし、暴動はすぐに軍によって鎮火され、主導した者達は逮捕されてしまった。それ以来、ヒップホップは忌み嫌われ、ラッパーに感化された若者は漏れなく粛正対象として捕獲されていた。

そんな中、大学生の山田猛はテニサーに入って、酒を飲んだり、テニスをしたりと、大学を謳歌していた。大学には政府からの張り紙が貼られている。
「汝、ヒップホップヲ禁ズ」山田はそれを見て思う。
「ヒップホップか。こんなものがあったから……」
山田には年の離れた兄の隼人がいたが、隼人は首相へマイクバトルを挑み、逮捕されてしまった。兄が逮捕されて、山田家は一家離散してしまった。猛も母型の姓に変えて、どうにか大学まで入った経緯がある。ただ、生活には困らないお金が毎月振り込まれていた。一体誰が……などと考えていたところ、悲鳴が聞こえる。テニサーからだ。

テニサーの部室へ行くと、そこには、ニューエラのキャップにエイプのパーカーを着て、エアマックスを履いた男が、マイクをもって同期の女の子へと襲いかかっていた。間違いない。ラッパーだ。どうしてここに!?
女の子は、猛を見つけると、おびえた様子で駆け寄ってくる。
ラッパーもこちらへ向かい、猛をにらみつける。一体、何が始まるんだ。
ふるえる2人にラッパーは言う。「マイクチェック、ワン、ツー。ハッハッ。8小節3ターン。ブリング・ザ・ビーツ!!」
きょとんとする2人に天空からスクラッチ音がして、突如、ビートが流れ始める。

流れたビートに対して、フリースタイルをかますラッパー。
フリースタイルを知らない猛は何をしていいかわからず、立ち往生だ。やがて8小節が終わり、ラッパーからマイクを渡されても、猛は何をしていいかわからない。
そのとき、講内の茂みから声が響く。
「猛、おまえにはラッパーの才能がある。思い出せ!テニスだ!!」
「テニス? そうか。テニスのラリーと同じだ!」
かくして、山田が相手のフリースタイルにフリースタイルを打ち返す。テニスと同じで、打ってきた言葉の球に対して、相手が打ち返しにくい場所へ返してやればいい。
隙を見せたらスマッシュのように、相手の弱い部分に打ち込めばいい。

ラッパーは覚醒した猛についていけない。
猛へのディスも的を射ねおらず、特に、猛の、破れてるのガットだぜ、とおまえモグリのカッコだけ、というパンチラインが放たれると、ラッパーは賞賛の拍手を残して爆散した。かくして、ラッパーは倒れた。

しかし、先ほどのアドバイスは誰だったのだろうか。茂みから人が現れる。隼人だ。
「どういうことだ、隼人! 俺たちは、お前のせいで!!」猛がキレる。それを無視して隼人は説明する。
政府は気づいてしまったのだ。ラッパーの操る「言霊」の力に。
これをうまく使えば、人を操り、言うことを聞かない人間をなくすディストピアが作れる。
政府主導のラッパー以外は捕獲して、政府の意向に従うラッパーへ改造する。そして自分たちの都合のいいように利用する。
隼人たちレジスタンスはその動きを阻止するために、全国のラッパー達を秘密裏に育てようとしていたが、その残党はほぼ捕獲されてしまっていた。

政府は最終段階へ入っている。政府が洗脳したラッパー達を野に放ち始めた。これを止めるには、レジェンドラッパーの力を借りて、政府をつぶすしかない。
本当は、弟の猛には平穏な生活をしてもらいたいと、お金だけは入れていたが、こうなっては仕方がない。猛、俺と一緒に世界を救うぞ、と隼人。
猛は半信半疑だったが、たしかにさっきのラッパーは爆散したまま跡形もない。信じるしかなかった。
猛はしぶしぶながら、レジェンドラッパーの力を求める兄とともに、世界を救うための旅にでるのだった。

これが、後の「証言」の始まりだとは、猛も隼人も知る由はなかった。

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