高校1年の夏休み。
親友のヒトミと初めて、ふたりっきりでの遊園地の約束。
待ち合わせ場所の手前の曲がり角、出会い頭に突っ込んできた車に跳ねられて私は即死した。
ずっと楽しみにしてたのに。
遊園地への未練が私をこの世界に引き留めた。
私は遊園地の広場まで飛んでいき、ベンチにうずくまった。
本当はヒトミと一緒にここに座っていたかもしれないのに。
行き交う来場客を眺めていると、ぽつんとひとり立っている少女。
よく見ると全身が透き通っている。私と同じだ。
ミズホと名乗った彼女もやはり、ここに来たかったのに来れなかった。
ミズホはずっと身体が弱くて遊園地に来れないまま死んでしまったそうだ。
遊び方が分からないのだ。
そういうことなら未練あるモノ同士、私が付き合ってあげようではないか。
夜になるまで待って2人で遊具を勝手に動かす。
ジェットコースターもコーヒーカップも動かせた。幽霊万歳。
1週間もすると全部のアトラクションに飽きてしまった。
最後にやっぱり!とミズホが言うのでジェットコースターに2人で乗り込む。
コースの最後の大きな坂道で絶叫しながら、ミズホは消えた。
この世に未練がなくなったのだ。
私はまだ消えられない。
私は遊園地で遊びたかったワケじゃない。
大事な人とここに来たかっただけだった。
1週間も怪現象が続いた遊園地はやはり、一時閉鎖されることになった。
来場客がいないから昼間も乗り物を乗り回せるようになったがそんなの意味がない。
観覧車に乗って、一人、外を眺める。がらんとした遊園地の景色は異質。
遊園地の敷地の外、電柱の影に人がいた。
ヒトミだった。
遊園地の入り口の近くの電柱。私たちの待ち合わせした場所。
私がが死んでからもう1週間以上経つのに、昼間はずっと待ち続けてくれていたのだ。
なんて健気なんだろう。
しかし、ヒトミのところへと飛んでいって抱きしめても、ヒトミの身体を素通りしてしまう。
私はここにいるのに!
ヒトミは涙を流す。
もう遊園地も閉まっちゃったから、どこで待ち合わせすればいいかわかんないよ。
私はここにいると必死で叫ぶが、ヒトミには聞こえない。
ヒトミが立ち上がり、去っていく。
待ってヒトミ。待って。
私が間違った。
最初からこの電柱に来ていれば、ヒトミはずっと私を待ってくれていたかもしれないのに。
それからヒトミはまるで何事もなかったかのようにこの遊園地に訪れた。
高校3年生の冬には男子生徒と。
その数年後には別の男の人や女の人と。
その数年後には男の人と、小さな子供と。
子供は私の近くまで走り寄ってくる。
追いかけてくるヒトミ。
ヒトミは私ごしに電柱を一目見て、何も言わずに子供を連れていく。
私はその背中をずっと眺めていた。
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