秋雨ハナは28歳にして破滅的な毎日を送っていた。
趣味は仕事と酒。仕事が終わったら終電まで飲む。たいてい終電は逃す。貯金はマイナス。
女一人、死ぬもんじゃなし、どうでもいい。
長い雨が続いて洪水注意報が出ていたが終電を逃した。
いつものバーで始発を待とうとしたが、洪水に備えるからと叩き出されてしまう。
タクシーも拾えずにフラフラしていると、道端にうずくまって泣いている少年を見つける。
ボロボロの和服に草履、これまたボロボロの番傘。
面倒ごとは嫌いなハナだったが、ベロベロで人恋し過ぎたが故に話しかける。
少年はハルサメと名乗り、家から逃げてきたのだという。
やっぱり酔っていたハナは少年を家に連れて帰ると、少年はやっと泣き止み、雨も止んでいた。
ハナとハルサメの歪んだ共同生活が始まったが、壊滅したハナの生活は変わらなかった。
幸い、ハルサメは身の回りのことは出来たので、むしろハナが退屈な時に夜まで連れ回されることの方が大変だった。
ハナは3軒目で決まって少し静かなダイニングバーでマスターにクダを巻く。
ハルサメは船を漕ぎながら、ハルサメ用に特別に作ってもらったクリームソーダを飲んだ。
翌日は大抵、ハナは二日酔い、ハルサメは寝不足でうんうん唸った。しとしとと雨が降っていた。
ある日、ハナとハルサメがやっぱりフラフラ歩いていると、若い女が2人、立ちふさがる。
派手な金髪と地味な黒髪眼鏡。
彼女らは、ハルサメを保護するためにやってきたという。
ハルサメは元々とある村に閉じ込められており、そこから脱走した。元々の主人はハルサメを使い悪事を働いていたが、彼女ら2人がこらしめた。
安心して、彼女たちの所で保護されて欲しい。
断る理由が無かったので、ハナはハルサメを引き渡した。
そもそも面倒を見てたワケでもなし。
行きたくないと泣くハルサメには悪いが、ハナには生活力も無いし、然るべきところに行く方がいい。
家に帰って冷蔵庫の発泡性リキュールを開けた。
外は強い雨。
ハナに日常が戻ってきた。
ハルサメが普通の人間でないことは薄々気付いていた。
ハナが思うに、ハルサメは雨を操っていた。
ハルサメが悲しむと、その日は絶対に雨が降るのだ。
きっと前の主人はそんなハルサメを利用するために、ハルサメが悲しむことをたくさんしたのだろう。
ハルサメの悲しみは癒やしてあげなくちゃいけない。
だから、きちんとした人のところに預かってもらうのが正解だ。
そう思っても、なんだか寂しくて涙が止まらなかった。
日本は記録的な長雨に襲われていた。
晴れ間が無くなってからひと月ほど経った日、二日酔いで倒れているハナの部屋に来訪者。
あの女2人と、ハルサメ。
ハルサメは、これまで人間として扱われたことが無かった。
けれど、ハナが初めてハルサメと一緒にいてくれた。
ハルサメにとって、ハナと一緒にいた時間だけが、人間として生きた人生だった。
だから、ハナと一緒にいなければ、涙が止まらなくなってしまう。
このまま雨が、ハルサメの悲しみが続けば、多くの災害が起きてしまう。
そして、ハルサメの悲しみを止めるためには、ハナが必要だ。
ハナがハルサメを抱きしめると、雲の切れ間から光が差しこんだ。
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